オタク、パンダの王国へ行く~後編~
【前回までのあらすじ】
関東民のオタク、パンダにハマる→和歌山遠征→白浜のアドベンチャーワールドにてパンダのバックヤードツアーに参加→いよいよ世界のアイドル・パンダ様とご対面…!
実は一番奥の部屋、諸注意を受けてる間はパンダが見えなかった。でもどうして見えなかったのかは覚えていない。まあつまり、記憶が飛んでるってことなのだろうけども←ナマのご本尊を前にした前後のオタクにはよくある事象。
それでは、ご登場です。
パンダ――――!!!!
本物だ、本物パンダが目の前に。超近い、2mもない。自分がいまどきのお嬢さんならこう言ったろう、「パンダまじパンダ」。っていうかもうそれ以外言いようがない。パンダまじパンダ。
パンダがパンダ座りしてる…まじパンダ…超パンダ…。
どアップにも耐える世界のトップアイドル。
この子は三姉妹の一番お姉さん、3歳の桜浜。パンダラブツアーのご対面コーナーは現在、双子の桜浜と桃浜が交互に担当している。うん、パンダラブツアー直前にパンダラブに行ったら桜浜がいないからそうかなあとは思ってた。桜浜、ふくふくとした丸顔に大きな耳の美少女パンダだと写真で見て贔屓にしていたので嬉しい。ちなみにパンダの3歳は人間で言うと中高生くらいだそう。
ご対面コーナーの檻と自分達との間には赤いテープが張られていて、この中には絶対入ってくれるなと厳命される。そして飼育員さんが桜浜に笹などを差し出しながら生態などについてまず説明。
ニンジンが取りたい桜浜。
パンダは5本の指に加えて人間で言うところの手の下方に「第6・第7の指」と称されるコブがあり(※本当の指ではない)、それを使って細長いものを掴むことができる。でも指先でなにかをつまむということはできないので、こういった小さいものを取りたい時は舌を使うのだそう。器用さで言うと「クマ以上サル以下」@飼育員さん。
パンダ3姉妹の中で一番マイペースだという桜浜、なかなかおやつあげ体験の定位置につかない。でもそこがまた超絶かわいいのでまったく無問題。むしろずっとそのマイペースっぷりを見ていたい。
ちなみに今までに桜浜は2回、桃浜は1回、ツアー中に眠ったまま起きなかったことがあるそうで「その3回、全部私が担当の日だったんですよね…」とは担当の飼育員さん。そういった場合は双子のもう片方を急遽代打として呼ぶのだそうだけど、今回は「ごろごろ転がってますけど目がしっかりしているので大丈夫だと思います」とのこと。
やっとやる気になったかに見えた桜浜。
飼育員さんに1m近くあるだろうフォークにニンジンを突き刺してもらい、檻越しにあーん。1人2回体験できるということで、撮影してほしい人は近くにいる飼育員にカメラを渡してくださいねという親切設計。
ところが。
おやつあげ体験2人目にして突如、床に転がるやら奥にある椅子にのぼるやらそこから前転で降りるやらといった奇行に走る桜浜。なんだなんだかわいいなと思いきや。
「おやつがニンジンなのが不満みたいですねー。リンゴ持ってるの知ってるので…替えましょう」
苦笑しながらフォークにリンゴを刺してそれで檻を叩き、「おうひーん」と呼ぶ飼育員さん。パンダは目があまりよくないけれど耳がよく、お客さんに混ざって飼育員さんが声をかけてもちゃんと反応するそう。また頭もわりとよくて、桜浜のお父さん・永明はかつて「ねだると他の人より好物をちょっと多くくれる飼育員さん」をちゃんと覚えていて、その人には特に駄々をこねていたそうな。
余談だがおやつの前、パンダは笹をえり好みするという説明の時に「桜浜―」と飼育員さんが笹を出す→ぺしっ→「これじゃないのね。じゃあこっちどうぞ」→ぺしっ→「…これも違うの。ああ、そう…」ってなってておかしかった。
ややして戻ってきた桜浜、リンゴに満足したらしくお仕事復帰。
途中、フォークの持ち方等がよくわからなくてリンゴを持ったまましばらく時間をかけたキッズに「わざと焦らされた」と勘違いして若干へそを曲げ(※飼育員さん談)また奥に遊びに行っちゃったりもしたけれども。15人全員が2回ずつおやつをあげ、和やかにおやつタイム終了。…と思いきや。
端っこの記念撮影ゾーンに移動し、椅子に乗って立ち上がる桜浜。なんだなんだ。
「あー…桜浜は段取りを理解しすぎてるので…この後、桜浜を立たせて観察してもらってからそちらで撮影なんですけど、全部一緒くたにやっちゃってますね…」
賢いな!さすがだすごいぞ!と自分は思ったものの、「そこに立たれるのは困るので、こっちに戻ってきてもらいます」と飼育員さん。例によってフォークの先におやつをつけて檻をカンカンカン。
改めて檻ゾーンでスタンダップ。やがて来る性成熟期に備えて足腰を鍛えるため、こうやって立たせるトレーニングをするのだとか。
自分達がいるところより若干床が高いといえ、飼育員さんの身長と比べると結構大きいのがわかる。あと、胸のところの白黒ははっきり色分けされてるわけではないとのこと。
あらよっと、みたいな謎ポーズ。
そしていよいよ写真撮影会へ。まず飼育員さん達が自分たちの後ろに黒い幕を張った。ガラスへの映り込み防止らしい。至れり尽くせりだな。
大きなガラスの前にベンチ的なものがあって、人間はグループごとにそこに座って撮影。ピンでもグループでも写してもらえるし、カメラ類を飼育員さんに渡して撮ってもらうことも可。自分は1人だったので飼育員さんが撮ってくれた。あとで確認したら縦も横も数枚ずつ写してくれてた、さすがだ。
撮影会終了後はフリータイム。自由に撮影できるし、壁の説明文や持ってきてくれた本物のパンダの爪やへその緒などの貴重な資料を見るのも自由、飼育員さん達への質問も自由。その前に「桜浜にお礼をしましょう」という声が。
お礼の品・タケノコが出てきた途端に目の輝きと表情ががらりと変わる桜浜。うまぁー!タケノコうまぁー!と大喜びしているのが自分達一般人でもわかる。タケノコはこの季節だけのご馳走で、柔らかい&ちょうどパンダの乳離れの時期が旬なので離乳食にも使われるそうな。
ちなみにしっかり者の妹・桃浜はすでに撮影会ラストにタケノコが出てくるのを知っていて、早くタケノコ出してと催促してくることもあるらしい。
かわいいofかわいい。悶絶するほどかわいい。さすが世界のアイドル、かわいい力ハンパない。
タケノコ?これ竹だろって思われる向きもあるかもだけど。人間が好むタケノコとパンダが好むタケノコは違ってて、パンダ用は1m以上育ったものらしい。実際、エサ用冷蔵庫の中に人間の背丈くらいのタケノコ…っていうか育ちすぎて竹になる寸前のがいっぱい置いてあった。
あとこの画像見てわかるとおり桜浜は左利き。妹2頭は確か右利きって言ってたような。パンダの利き手の割合はほぼ半々らしい。毛が茶色なのは食物や加齢などの影響だそうで、年齢が上がってくるごとに茶色になっていくそう。なのでアドベンチャーワールドでは1歳の結浜が一番白いんだとか。そしてこの茶色は水浴びでは落ちないらしい。
(上野の12歳ペア・リーリー&シンシンの方がここのパンダ達より白くないか?と思ったけども。どうしてかは聞けなかった)
フリータイム中に飼育員さんがパンダの白い部分の毛でできた筆状のものを触らせてくれたのだけど、これがゴワゴワ。お習字の筆以上タワシ未満くらいの硬さ。見た目と違う。
ここでずっと気になってて、絶対質問してやるんだと思ってたことを聞いてみることに。「あの…赤ちゃんパンダってふわふわもこもこですよね…まん丸くて…」ここでハッとなって「結浜ちゃんの赤ちゃん時代の映像とか見ると…」と付け加えた自分、 小心者。「実際どうなんでしょうか?」シャンシャン見てて気になってたとバレるだろうか…とヒヤヒヤする自分の前でにっこり笑ってくれた飼育員さん、「赤ちゃんは綿毛みたいに柔らかくてふわふわしてるんです」と。うひょーやっぱりふわふわなんだ、シャンシャンは…!
そしてすっかり自撮り大会になってる会場内、唯一ぼっち参加の自分を気にしてくれてたみたいで「お撮りしましょう」と複数の飼育員さんが声をかけてくれたのだけども。
違うんだ、自分は古のオタクなので「自分とご本尊」の2ショにはそんなに興味ないんだ…ただひたすらご本尊の話を聞いてご本尊の写真が欲しい、それだけなんだ…! …とは言えないので「大丈夫ですーありがとうございますー」と笑顔でかわす作戦。
差し出されたipadでアンケートに答えたりしてるうちにいよいよ終わりの時間が。「最後にみなさんで桜浜にばいばーいと手を振りましょう」という、大人女子にはちょっときっついなあという指示が。ところがこれ、ちゃんと意味があるそうで。
「最後に」と「バイバイ」という声がツアー終わりの合図である、とパンダ達に条件付けしてあるのだそう。そしてその声をきいた途端
なぜか自分の出口によじ登る桜浜。終わったんだから帰らせてーと言いたかったんだろうか。ありがとう桜浜、お疲れさま。
パンダラブの運動場に戻ると屋内担当になった結浜がお昼寝中。さっき言ってた前足のコブが見える。
その後14時過ぎからは「パンダ塾」という学習系アトラクションが。ただ、こちらに関してはネタバレしてしまうと面白くないと思われる方もいるかもしれないので、内容に関してはざっくりとだけ。
まず前編で紹介した集合場所で飼育員さんから参加者の点呼を受け、プリント2枚と鉛筆と筆記用台紙、さらに白黒のペットボトルホルダー状のものが手渡された。そのホルダーは首からぶら下げられるようになっていて、中にはイヤホンと小さな受信機っぽいものが。バックヤードに行く前に一般観客に混ざってパンダの観察をするので、人混みの中でも飼育員さんの解説がきけるよう(そして他のお客さんの邪魔にならないよう)イヤホンをつけるという寸法。
ちなみにイヤホンを配ってくれた飼育員さんがパンダラブツアーで最初に担当してくれた仙台出身の飼育員さんで、うわっ「何度も来やがって」と引かれるかもと少しビビったけども。予想に反してとても喜んでくださった。ありがたや。
イヤホンでパンダトリビアを聞いたり、屋外の広場に集まって道具を使ってパンダの生態を勉強したり。そのあと実際にバックヤードに入り、パンダラブツアーと同じように施設の見学。違うのはパンダご対面部屋に映写設備が用意してあってVTRによる学習があったこと、それから「体験して学ぼう」系のイベントがあったこと。
ちなみにこのパンダ塾、内容が季節によって違って、春夏秋冬全部受講するといいことがあるらしい。スタンプカード的なものをもらえるので、複数回行く人はチャレンジするといいかも。
そんなこんなで2つのイベントが終了。
戻ってきたら屋内運動場を結浜に譲った桜浜、外担当になってた。
2つのバックヤードツアーで印象的だったのは、バックヤードが明るく清潔に保たれていたこと。金属部分はどこもぴかぴかだし、床の白いタイルも綺麗に洗われている。パンダはいつも食べてる分、排泄物もいつも出るそうなのだけど、パンダラブツアーの数十分後に同じ部屋に行ってみたらそこにパンダがいたのが夢だったかのように跡形もなく綺麗になってた。
あと、動物を飼っている施設ってどんなに頑張ってもいわゆる獣臭さがつくものだと思っていたけど、各施設もバックヤードもまったく匂わなかった。超間近にパンダがいる時もそう。強いて言うなら草っぽい青い匂いだけど、笹や竹がオープンスペースに山ほど置いてあるのだからそれは仕方ないし臭いとは思わなかった。仮にパンダ自体があまり臭いがきつくない生き物なのだとしても、場を清潔に保つために懸命に努力してるのだろう。
そして。「パンダは背中を何かにもたせかけて楽な姿勢で座る習性があります。アドベンチャーワールドでは運動場のお客様側を低く、奥を高くして、パンダが自然にお客様側を向いて座るようにしています」これを聞いて、ああここは公営の動物園ではなく(いい意味で)私営の商業施設なんだなあと思った。
運動場に傾斜をつけるのは若いパンダの足腰を鍛えるためだと本で読んだけど、それとお客様サービスを同時に叶えようという発想、公営施設ではあまりなさそうな気がする。どちらがいいとか悪いとかじゃなくて、根本的に違うんだなと。どちらもいいと思う、個人的には。
それから飼育員さん達。パンダ関係では女性の飼育員さん達しか見なかったけれど、みんな明るくて柔和な感じがした。歌うような声で「おうひーん」「とうひーん」と呼ぶ彼女達と、「なあに?」と言いたげに顔をあげるパンダ達。いい関係なんだなと思った。
アドベンチャーワールドで売っていたパンダファミリーの本の中に、中国に旅立つパンダ達との別れの話が載っていた。いいお母さんになってほしい、と飼育員さんが語っていた。それを読んで思い出したのは以前トークイベントで聞いた上野動物園前園長の言葉。シャンシャンを返さないでほしいという観客の訴えに「気持ちはわかるが雌パンダは4~5歳で性成熟期を迎える、その時にパートナーもなく1人ぼっちだったらかわいそうなのはシャンシャンです(※要約)」と穏やかに答えていた。
十二国記という小説がある。その中に神獣・麒麟とそれを育てる女仙という存在がいる。麒麟は女仙達のいっぱいの愛情を受けて成長し、大人になると与えられた役目を果たすため彼女達のもとを去る。女仙達は幼い麒麟に愛情を注ぎ無事旅立たせるためだけに存在する。――――飼育員さん達もそういう存在なのかなとあそこに行ってぼんやり思った。
白浜に1社しかない路線バス会社。パンダ模様。
アドベンチャーワールドはすごく楽しい施設で、1日じゃとても回りきれない。パンダだけでも1日中見ていられる。
ただ、関東民からするとネックとなるのはとにもかくにも交通の便…。JALの羽田ー南紀白浜便は前述したとおり1日3便、大型の機材が飛ぶようになったと宣伝しても90人ちょっとしか乗れないのでハイシーズンや土日は発売当初から争奪戦となる。加えてJALは自前のツアーを持ってるから、その分座席が減るし。大阪から当日入りしようとすればレンタカーや自前の車を使わない限り高速バスも特急も開園時間に間に合わないから、1泊余計に取るか体力消耗覚悟で夜行バスに乗るか、もしくは午前中は捨てるか。余談だけど南紀白浜便、羽田の最終は16時台。
じゃあJALのツアー使えば?となるけど、利用は2人からしか受けてないという。ぼっち客は歓迎してないんだろうな、温泉地だもんな…という。そう、ホテル利用もぼっち客には優しくない。たまたまスポーツの国際大会とぶつかったので余計だろうけど、ビジネスホテルがほぼないのでぼっち客だとものすごく条件が悪くなるとこ多数。温泉地だから仕方ないんだけども。
特急なり飛行機なりで白浜入りしても、今度は公共交通機関が発達してないという罠が。前回書いた通りアドベンチャーワールド行きのバスは朝出てないし、夜もバスがさっさと終わってしまうのでその後は徒歩かタクシーか。地方にありがちといえばそうなのだけど完全なる車社会。
そしてランチを食べる場所は多いのに居酒屋以外で夕方以降なにか食べられるところは数えるほど。1泊目は夕食付にしなかったのだけど、食べるところを探すのに結構苦労した。観光客は旅館やホテルで食べるのを前提として町が作られてる感。コンビニも町内に数えるほどしかないし←まず駅前にない。
シャンシャンがブームになった頃、県知事さんその他がしきりに「パンダを見るなら和歌山で」って宣伝してたけど。まずこの辺をどうにかしないと、関西の人とよほどのマニア以外は「行きたくてもねえ…」で終わるんじゃないかなあと余計なことを思ってしまう。
自分も地方で暮らした経験あるから車社会で公共交通機関が衰退してしまうのはよくわかるし、飛行機の便数や機材は簡単には変えられないんだろうけど。
そんなに他地方からパンダ客を誘致したいなら、せめてかき入れ時くらいはどうにかしてくれたらいいんだけどなあ…と他力本願なことを考えたところでオタクの旅の記録は終了。おつかれさまでした。